誰も楽しくないような三歌←くりのメモ
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普段三歌なのですが、ある時喧嘩(というか歌仙が三日月に対して一方的にイラツついてブチギレ)してしまう。
その夜イライラが収まらず一人部屋で飲んでいたがそれもなんだかすっきりせず二本目を厨に取りに行く途中で大倶利伽羅と遭遇。
「そういえば貴殿は明日非番だったね。付き合ってくれたまえ」
相手の返事を待たずに自室に誘い、黙っている大倶利伽羅にずっと愚痴り続ける。
大倶利伽羅は以前から歌仙のことが好きだったが、彼が三日月と良い仲なことも知っているので、彼の気持ちを尊重している。
そうこうしているうちに、歌仙の酔いも段々回ってきてとんでもないことを言い出す。
「あぁ、もう今思い出しても腹立たしい! いっそ僕が浮気でもしたと知ればあのじじいも少しはこっちのことを聞いてくれるかな?」
「おい、あんた飲みすぎだ。そろそろ終いにしろ」
呆れた大倶利伽羅が歌仙から酒の瓶を取り上げようと手を伸ばす。
以前からことあるごとに歌仙の愚痴聞き係でもあった大倶利伽羅。
悲しいがなお開きにするタイミングも分かってしまっている。
この本丸の頼れる初期刀様は、元主に似てどうも色恋沙汰となるとダメだった。
しかし先に自分の手首を捕まれ、既に敷いてあった布団に押し倒されてしまった。
「おい、」
「ふふ。何だったら貴殿でも構わないさ。性格はアレだけど容姿は整っているからね……どうだい、一晩だけ楽しませておくれよ」
普段の歌仙なら言うはずのない言葉をつらつらと並べ、自ら寝間着の帯を緩めて白い肌を晒す。
「待て、おい、やめろ!」
大倶利伽羅も普段ではありえない大声で彼を押しのけようとした。
互いに極めていて練度も互角。暫しの荒っぽい攻防戦ののち、歌仙は急に脱力しうつむく。
「なんだ。三日月はおろか貴殿も僕がそんなに気に入らないのかい」
「そんなことはどうでもいい。それよりあんたは水を飲んだ方がいい」
「いらないよ。どうせ抱かれたらまた喉が渇く。その時でいいから……」
「悪いが俺はあんたの側室になるつもりはない」
大倶利伽羅がきっぱりとそう言い放ち、歌仙の機嫌はますます悪くなる。
「……へぇ、ならば正室にしてあげても構わないよ」
「そんなことになったら、俺が三日月宗近に斬られるだろう」
「そんなに僕をあの刀のもとへと返したいのかい」
「そうでもしないと明日のあんたにも首を撥ねられそうだからな」
歌仙の背中を撫でながらそう説得すると、彼は大きな瞳から今度は涙をこぼしだす。
「どうして、どうしてそんな……僕が彼から離れられないのを知っているんだい」
「この本丸では誰もが知っていることだ。今日はもう休んだ方がいい」
「うん、うん……」
歌仙は嗚咽を漏らしつつも、そこでようやく大倶利伽羅から差し出された湯呑で水を飲む。
大倶利伽羅はなお無言で歌仙の乱れた寝間着を少しだけ直してやり、落ち着くのを待っていた。
しばらくすると歌仙は泣き疲れたのか眠りにつく。大倶利伽羅はそれを見届けると彼を布団に寝かせ、後片付けをして部屋を去った。
翌日、どうやら歌仙も非番だっただったようで有らず次に顔を見たのは八つ時だった。
登板の燭台切と福島で用意したという「カヌレ」なる菓子を取りに廊下を歩いていたところ、二人分のそれを乗せた盆を持った歌仙と出くわす。
彼は大倶利伽羅の顔を見るなり一瞬、ハッとして、それからまたいつもの仏頂面に戻ってこう言った。
「……昨日は、悪かったね」
「いや」
「先に眠ってしまって後かだづけをさせたことは申し訳ないと思っているよ。でも」
大倶利伽羅は黙って次の言葉を待つ。
「せめて去るときは一声かけて欲しかったよ。全く」
それだけ告げて歌仙はまた歩き出す。
振り返って彼が向かう先を見れば縁側。そこには既に内番着姿の三日月宗近が腰を下ろしている。
「遅くなってすまない。これから茶を入れるよ!」
遠くで歌仙が三日月にそう話していることが聞こえたし、遠目に見る彼の表情は晴れやかで花が綻ぶようだった。
おそらく仲直りしたのだろう。
そう確信して大倶利伽羅は口角を薄く上げて歩き出した。
昨晩のことを歌仙がどこまで覚えているのか。そうんなことは大倶利伽羅にとってはどうでもいい。
それよりも彼にとっては日々こうして本丸に歌仙の笑顔があることと、一度自分にだけ涙を見せてくれた。その事実で十分心は満たされている。
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